この女面白い

事業部長と会議室に入るなり、事業部長は俺のアメリカ勤務について聞いた。
30分ほど話した後、今度は葉月サンの話を始めた。

 

「彼女は優秀だよ」

 

細い目を更に細めて笑う事業部長に、この人がいかに葉月莉英という女を買っているか、一目瞭然だった。

 

事業部長は俺が新人で入った時から世話してくれた先輩でもある。
俺はこの人に仕事を教わった。
この人は厳しい人だ。
滅多に人を褒めているのを見たことが無い。
その事業部長がべた褒めとは・・・

 

「そうだ、東雲君、今後の打ち合わせの為に君がいなかった間の新規顧客資料と取引状況をザッと確認して来て貰えるか?」

 

唐突に言い出した事業部長の提案に俺はウンザリした。

 

「お言葉ですが、そんな事してたら1日その作業で終わりますよ」
「10分もかからんよ。葉月サンに案内を頼むと良い」

 

いやいや、事業部長、アンタあの倉庫の中の雑多に積まれた資料を見たことあんのかよ。
5年前、俺が必要な資料を探し出すのに新人の増田が何時間も戻って来ず、てっきり逃げたのかと倉庫に入って盛大な溜息をついたのは5年経っても忘れない。
そのあと増田と2人で目的の資料を見つけた頃にはとっくに定時の17時45分を過ぎていた。

 

けど、まぁ、葉月サンと一緒ってのは面白いかもな。
アイツ、俺にどう出るか。
葉月サンは相変わらずの戦闘モード。

 

倉庫に案内され、目的の資料が入ったファイルをアッサリと取り出し俺に手渡す葉月サン。

 

年度毎に表紙が付けられ、各企業のインデックスが付けられている。
それぞれ取引契約書・契約時の単価表、単価が更新されれば新しく単価表が付け足されている。
事業部長の言う通りだ。
これなら10分もかからず状況把握出来る。

 

「この資料纏めた奴誰?」
「私ですが」

 

素っ気ない返事が返ってくる。

 

「見易い」
「でしょうね。入社してから事業部長や営業さん達にあの資料を探せ、この資料を探せって言われて、それを探し出すのに無駄に何時間もかかるのに腹が立って手の空いた時にちょっとずつ纏めましたから」

 

ウンザリした顔をする葉月さんは良い子ちゃんの仮面を外していた。
自分がした功績を誇るでも無く、褒めてもらおうともせず、今までの怠慢に毒を交えながらも当たり前の事をした、という言い方はますます俺に葉月莉英という女を気に入らせた。

 

この女、本当に面白い。

 

視線を感じて横を見れば、葉月サンが俺をガン見していた。
目の保養と答えた葉月サン。
仮面を外したまま、まさかのタメ口に腹筋が崩壊した。
ヤバイ。
ツボ過ぎる。
この女。
このまま上司と部下の関係でいるなんて勿体無ぇな。
今朝失恋してんだし、手出しても問題無ぇだろ。
そもそも、タメ口で上司と部下の壁を最初に破ったのは葉月サンだ。