色気

「クッ」

 

慌てたように振り向いた葉月サンと目があった。
ヤベ。盗み見してたのバレた。

 

「悪ィ」

 

そう声に出して謝りながらも、振り向いた葉月サンの悲壮感漂うその表情にまた笑いがこみ上げて来る。
葉月サン、振られた時より今のが酷い顔だ。

 

あんまりに「ヤバイ」って顔してるから、怒らせてみたくなった。

 

「男見る目ねぇな」

 

俺の言葉にピクリとこめかみが怒りを表した。

 

「本当ね。私も自分の見る目の無さにビックリしてたトコ」

 

葉月さんは怒りもせずにアッサリとそんな事を言う。

 

「目上に敬語も使えねぇのかよ」
「お生憎様、失恋したばかりの女子に心ない言葉をかけるような男に使う敬語は持ち合わせて無いの」

 

あ、怒ってたのか。
嫌味を含んだ棘のある言葉についついからかいたくなってしまう。

 

「気ぃ強っ・・・そんなんだからフラれたんじゃ無いか?」

 

俺の言葉に葉月サンは無感情に俺を見上げた。
ヤベ。怒らせ過ぎたかも。

 

「かもね」

 

葉月サンは余裕綽々な態度でそう答えて笑顔を作ると俺にヒラヒラと手を振って歩き出した。
ガキのクセに、色気もあるとか、どんだけ良い女だよ。

 

葉月サンの余裕な態度が強がりだったと知るのにそう時間はかからなかった。
懐かしい5年ぶりのフロアで、まさかの再会。
慌てて縮こまってパソコンのモニターの影に隠れたの、バッチリ見えてるから。
笑える。

 

チャイムと同時に鳴った電話に慌てて出て此方に背を向ける。

 

ヤバイ。
何だソレ。
可愛いな。

 

必死に隠れてるつもりの葉月サン。
俺に気付かれていないと思ってるんだろう。

 

上司と知って、葉月サンは俺に媚びてくるだろうか。

 

皆への挨拶が終わった頃、丁度葉月サンの電話も終わり、事業部長が葉月サンの所へ俺を案内する。
立ち上がり、振り向いた葉月サンは笑顔だった。
あの浮気男に三行半を突き付けた時と同じ。

 

ナルホド。
これが葉月サンの戦闘モードか。

 

ふと目に着いたのはパソコンのモニターに映る検索画面。
東雲 しののめ と検索結果が羅列されている。
読めなくて調べたのか。

 

・・・こんな場所で笑う訳にいかない。
俺には俺の戦闘モードがある。

 

葉月サンの仮面を剥がしたくてパソコンのモニターに指差して告げた言葉はまさかの事業部長に拾われて失敗。

 

この後は事業部長と今後の方針を話し合う為の打ち合わせがみっちり丸1日入っている。
面倒クセ。