好みど真ん中の女との出会い

side-充

 

5年間のアメリカ勤務を終えて、懐かしの日本。
感慨に耽る間も無く朝のラッシュにウンザリしながらようやく電車を降りたのも束の間。

 

「なぁ、本当に言うのかよ・・・」
「当たり前でしょ?ちゃんと浩司から別れるって言って」

 

顔はそこそこなのに何だかウジウジしている優男と、私女です!を全面に出した女が俺の前を陣取ってトロトロ歩いている。

 

どうでも良いからさっさと改札くぐれよ。

 

目の前のカップルにイライラしながらなんとか改札を抜けた。
女が男の腕に手を絡ませ男を引っ張る。

 

「葉月さん!」

 

その声に振り返った女の顔を見て、気が付けば俺の足はピタリと止まっていた。

 

俺の好み、ど真ん中。

 

振り返る時にふわりと靡いたウェーブがかった少し茶色の髪は恐らく地毛。
俺の手のひら程の小さな顔に二重瞼にパッチリくりくりした瞳。
みずみずしい桜色の唇。

 

正直、女に困った事は32年間生きてきて一度も無い。
俺の顔を見てカッコイイだの惚れただの言う女にはウンザリだった。
外見なんて所詮器だろ。
・・・って、そう思ってたのに。

 

 

いや、ただ好みの女ってだけだ。
見た目随分若そうだし・・・20代前半くらい?
別にあの女とどうこうなろうって訳じゃない。

 

葉月さんと呼ばれたその女は2人を見て本の一瞬、ガッカリという顔をした。

 

「私と浩司、付き合う事になったから、別れてくれるわよね?」
「ごめん、莉英、俺・・・その・・・」
「ハッキリ言ってよ」

 

モゴモゴと口ごもっている男に腕を絡めている女が男を睨む。

 

この男、バカじゃねーの?
どう見たって葉月サンのが良い女だろ。
わざわざランクも程度も低い女に乗り換える理由が俺には思いつかない。

 

葉月サンは泣くだろうか?それとも怒るかショックで逃げ出すか・・・
俺の知ってる女達の終わりはいつだってこの3択だった。
でも葉月サンは違った。
微笑んだのだ。
穏やかに。

 

「浩司、須藤さんの事好きになったのね。それじゃあ仕方無いね・・・別れよう」

 

何だソレ。
物分りの良い子ちゃんかよ。
興醒め。

 

「別れたんだから、苗字で呼んで」

 

女が葉月サンを睨み付ける。

 

葉月サンは今度は口角もしっかりと上げてニッコリと笑った。
それは清々しい程に嫌味の無い笑顔だった。

 

「そうね。それじゃあ畑中君、須藤さんとお幸せに」

 

その言葉に2人は葉月サンの横を通り過ぎていく。
すれ違った瞬間に揺れた瞳。
右手の掌は握りしめられていて、小さく震えていた。
泣く・・・だろうか。

 

「ナンダコレ」

 

小さな小さな呟きが風に乗って聞こえてきた。
葉月サンは遠ざかる2人の背中を見つめていた。

 

「ウザ・・・」

 

顔に似合わない悪態が2回も続いて、思わず笑いが漏れた。