イケメン部長

電話を置いたら後ろに人の気配。

 

「葉月さんは初めて会うよね。東雲充(しののめ みつる)君」

 

事業部長の言葉に覚悟を決めて笑顔を作り立ち上がる。

 

「はじめまして。営業のサポートをさせて頂いています。葉月莉英です」

 

事業部長が満足気に頷き、東雲部長は素っ気なく一言。

 

「宜しく」

 

は?
何そのクールキャラ。
人の失恋にわざわざ物申して来た人とは思えない。

 

と、東雲部長の手が上がってくる。
握手?
と首を傾げそうになった時、細く骨ばった綺麗な指を一本残して他の指を折り曲げた。
東雲部長の指がパソコンのモニターを指している。

 

「感心だな」

 

そう言って口の端を上げた東雲部長の指先を辿り、彼の言葉に含まれた裏を読みカーっと顔が赤くなる。

 

パソコンのモニターには東雲の検索結果がズラリと並んでいた。

 

「葉月さんは分からない事は直ぐに調べるし、1人で解決出来ない時はきちんと指示をあおぐ。基本に忠実だが彼女の仕事は完璧だよ」

 

事業部長は私を褒めて下さったけど、違うんです。
この男の言いたかった事は、

 

お前、東雲も読めねーの?
バカじゃね?

 

だ。
あー!腹が立つ!!!

 

事業部長と東雲部長が通り過ぎていく。

 

「莉英ちゃん、まさかまさかの冷徹鬼の仕事マンに褒められたね!」

 

こそこそっと増田さんが耳打ちしてくる。

 

「増田さん、違いますよ。私こんな屈辱初めてです」

 

検索結果が表示されているウィンドウごと画面を消して、人事通知のそのメールをゴミ箱行きにした。

 

さ、仕事仕事。

 

朝からのイライラを吹き飛ばすように仕事に集中した。
時計をチラリと見れば、無心で仕事をしていたにも関わらず始業からまだ1時間しか経っていない。

 

思わず溜息を吐き出しそうになった時、私の横に影が落ちた。
東雲部長だ。

 

「5年分の新規顧客情報と取引状況確認したい。資料室案内しろ」

 

はぁ?!
何その命令口調!

 

「分かりました」

 

笑顔で頷き立ち上がる。
っていうか何で私?!
って、1番下っ端だからだよね。

 

お互い無言のままエレベーターホールに出て、エレベーターを待ち、地下にある倉庫に直行。

 

倉庫の扉にあるプレートに社員証を翳して鍵を開け、顧客情報を保管してある棚へと案内する。

 

「どうぞ」

 

この人の前で良い子ちゃんするのも面倒で笑顔を消し、顧客情報をまとめたファイルを取り出し、手渡した。

 

東雲部長は資料をパラパラと捲る。

 

「この資料纏めた奴誰?」

 

何の意図があってそれを聞くのか。

 

「私ですが」
「見易い」
「でしょうね。入社してから事業部長や営業さん達にあの資料を探せ、この資料を探せって言われて、それを探し出すのに無駄に何時間もかかるのに腹が立って手の空いた時にちょっとずつ纏めましたから」

 

真剣に資料を見ている東雲部長の顔を見上げる。
この人、本当イケメン。
女に困った事とか無いだろうな。
モデルとかスカウトされた事無いのかな?