ときめき

東雲部長は皆より少し遅れて飲み会へやって来た。
東雲部長の歓迎会なので、既に飲み始めてはいたが1度仕切り直しをする。
うちの部は事業部長の計らいでお酌禁止令が出ている。
女性も男性も、上下関係もなるべく取っ払って無礼講で飲みましょう、との事だ。
勿論、最初はビールじゃなきゃダメだとか、ソフトドリンクはダメだとか、そんな事も無く、私と増田さんは初めから甘いカクテルを頂いている。

 

後で覚えとけよ、と言った東雲部長は飲み会へ来てからというもの特に不機嫌な態度も無く、私の方を見ることも無く。
拍子抜けするくらいただのクールな男だった。

 

「ごめんね、充が怖がらせて」

 

隣に座っていた宮部さんの唐突な言葉に首を傾げる。
東雲部長を怖いと思った事、無いけど。
出逢いが出逢いだったし。

 

「いえ、怖いと思ってないので大丈夫です」
「そう?充、あのルックスでしょ?入社当時から凄いモテてさ、女の子にはいつも警戒モード。睨み付けて威圧的で、俺に近寄るなオーラ全開なんだよね。男にはそんな事無いんだけど」

 

は?
女の子に警戒モード?
俺に近寄るな???
地下の倉庫でガッツリ襲われかけましたけど?

 

「それじゃあ東雲部長って彼女作らない人ですか?」
「そういう訳でも無いけど・・・長続きしたのは見たこと無いかも。充が女にフられる時はいつも同じ文句。クールで無口で何考えてるのか分からない。愛されてると思えない」

 

宮部さんの言葉に疑問符が浮かぶ。
嘘でしょ?
あんな分かりやすいのに。
ってか、あの人無口じゃないし。

 

「充、束縛もしないし、連絡もマメじゃないからね」
「そんな感じですね」

 

しかも一方的で、「明日デートだから、何時に○○駅」とか言いそう。

 

「すいません。ちょっとお手洗いに」

 

宮部さんとの話を切り上げてお手洗いに行き、小さく息を吐き出した。
もし、今日が歓迎会じゃ無かったら、私はどうしてたんだろう。
東雲部長と今頃2人で何処かに行っていただろうか?
考えなくて良くなった事でその選択をうやむやなまま放置していた問題について少し考えてみる。

 

ムカつく人だけど、顔は良いんだよね。
それに、素のままの私を知ってるから、いちいち良い子ちゃんキャラ作らなくて良いし。
・・・ま、考えても仕方ないか。
金曜日の約束は無くなったんだし。

 

皆の場所に戻ろうとお手洗いを出た所でグイっと腕を引かれて外に連れ出された。
さっきまで考えていた東雲部長、その人の手によって。

 

「二次会には行くな。駅の裏口で待ってろ」
「はい?」
「金曜日予定あけとけって言ったろ?」
「・・・は?!」
「拒否権無し」
「ちょっと!そんな勝手な」
「分かったな、りぃ」

 

ニコっと微笑まれて、頭の上に大きな手を乗せられて二の句が告げなくなる。

 

ヤバイ。ときめいた。

 

顔の温度が2度は上がった。
お酒のおかげで、色付いた紅い顔には気付かれていない筈だ。

 

誰が無口でクールで、女に警戒モードだって?
反則過ぎる。

 

「そんな顔するな。今すぐ連れ去りたくなる」
「なっ・・・ば、バッカじゃない?!」

 

あ、また声が裏返った。
東雲部長はククッと笑いを漏らした。
と、思えば唇を塞がれて、あの時と同じ甘いキス。

 

唇が離れて、吸い込んだ息を吐き出すと同時に精一杯の強がり。

 

「せっ、セクハラっ!!」

 

店内に逃げ込んだ私の背中に東雲部長の優しい低音ボイスが届いた。

 

「ハハっ、また逃げた」

 

なんなんだ!あの人は!
ドキドキし過ぎて心臓が破裂するっ!